上場企業を分析【ジンジブ】/ジンジブ / 高卒 / ジョブドラフトナビ / 社会的企業 / 人手不足 / 上場 / IPO / 東証グロース市場

私が中小企業診断士になるきっかけとなったのが、株式投資です。上場企業の決算書をもっと詳しく知りたい、経営を知りたいと思ったことがモチベーションとなり、2021年に中小企業診断士になりました。

昨年から新NISAが始まり、多くの方が株式投資デビューを果たしています。株を始めてみたはいいが、IR(InvestorRelations)資料を見てもさっぱりわからん!という、かつての自分のような方に向けて、上場企業のIR資料を読み解くYouTubeチャンネルを始めました。

ぜひご覧いただき、中小企業診断士平澤龍一を知っていただくきっかけになれば幸いです。また、動画の内容を、ブログでは文章で記載させていただきます。

ジンジブの紹介

第2回目に取り上げる企業は、ジンジブです!
ジンジブは、高卒人材に特化した求人メディア「ジョブドラフトnavi」を主軸にしたサービスを提供することで、中小企業の高卒人材の採用支援を行っています。
大卒人材の求人メディア市場は、マイナビやリクナビなどの大手企業の寡占状態となっていますが、ジンジブは、高卒人材というブルーオーシャン市場に目を付け、新しい市場開拓を行ってきました。
そんなジンジブのサービスや強み、業績について見ていきましょう。

なお、このブログの制作にあたっては、ジンジブのIR資料を参考にしています。

企業概要

・まずは企業の概要です。
株式会社ジンジブは2015年3月に現在の事業をスタートさせ、大阪を本拠地として全国に10か所の支店を有しています。
従業員数161名、売上高約20.8億円の規模の会社となっています。
特出すべきところとして、従業員の61.5%が女性、女性管理職率は31.6%となっており、女性が活躍しやすい職場環境であることが伺えます。

ジンジブのビジョンは「若者に希望を与えるナンバーワン企業になる」です。

高卒人材に関する社会課題

高卒人材をめぐっては大きく3つの社会課題があります。
まず一つ目が高い求人倍率です。
人手不足などを背景に求人倍率は全国で3.49倍と過去最高であり、1986〜91年頃のバブル景気時代を超える「売り手市場」となっています。

高卒求人倍率3.49倍を具体的な数字にしてみると、例えば7社の会社が高卒人材を採用したいと思っていても、2社しか採用ができず、5社は高卒をあきらめるしかないという状況です。

次の社会課題が離職率の高さです。悲しいことに、企業と従業員の間にズレやギャップが生じてしまい、高い倍率で採用した採用した高卒人材も、3年以内に37%が離職をしてしまいます。

最後に、高卒就活特有のルールがあることです。高校生は未成年であり、基本的には学校があっせんする会社に就職する形になっています。

具体的な例を言いますと、①高校生と企業は直接連絡することは禁止されています。また、②生徒は学校を通して1人1社のみ応募が可能となっています。さらに③学校から就職先資料として渡されるのは、文字で書かれた紙の求人票のみです。しかも④就活ができる期間は7月から9月の約2カ月程度となっています。
もちろん、高校生を信頼のおける会社に就職させるという目的があるために、このようなルールが課されています。
しかし、自分の人生の多くの時間を費やす仕事を、このような多くの制約がある中で決めなければならないのは、あまりにも酷であると言わざるを得ません。

事業内容

こういった高卒新卒をめぐる社会課題を解決するプラットフォームとして、高卒に特化した求人情報プラットフォーム「ジョブドラフトナビ」が提供されました。
企業は、掲載料を支払い、こちらのプラットフォームに自社の魅力などを記載して求人活動を行います。
プランによって価格は異なるのですが、無料、年額36万円、88万円でサポートを受けることができます。

また、高卒生向け合同企業説明会である「ジョブドラフトFES」も開催しています。オンラインだけではなく、オフラインでも高卒人材と企業のマッチングを行っており、このような取り組みは経済産業省で特筆すべき取組として表彰も受けています。

さらに、学校との連携を深める取り組みも行ています。例えば、企業からの求人票をデータで管理できるシステムや、キャリア教育コンテンツを提供しています。教員の長時間労働が近年社会問題で取り上げられていますが、ジンジブのサービスを活用することで、教員の労働生産性を改善させることができます。

競争優位性

次に、ジンジブの強みです。まず一つが、これまで培ってきた高校とのつながりです。これまで、なにかと制限が多い高卒人材市場を一から開拓してきたことにより、業界内で厚い信頼と知名度を得ています。

ジンジブは、全国の全高校のうち、約三分の一に訪問を行っています。関東や関西エリアは半分以上の高校とつながりがありますが、それ以外のエリアについては、まだまだ開拓の余地があると言えます。

次に、高校生に刺さるコンテンツ作成力がです。ジンジブはもともと広告代理店として事業をスタートしているため、伝わるデザインや文章のノウハウを有しています。

ちなみに、ジンジブ自身でも積極的に高卒人材を採用しています。これにより、高卒人材が共感できるコンテンツやサービスを作り上げることが可能となっています。

売上・利益

続いてジンジブの売上と利益を見ていきましょう。売上高は前年対比で約144%の約21億円。営業利益は前年対比で約366%の約2.7億円となりました。ここで注目すべき点としては、営業利益率が前年対比で8.2%増の13.1%に改善したことです。これまで以上に生産性が改善し、利益が出やすい体質になりつつあります。

しかも驚くべきことに、中期計画では、今後3年間で売上を約3.2倍、営業利益を6.2倍に増加させると宣言をしています。今回の決算を受けて、ジンジブの株価は急騰していますが、この野心的な中期計画が投資家にインパクトを与えたのではないかと考えられます。

次に売上の構成比です。主軸事業であるドラフトナビが売上の半分以上を占めています。一方で、企画制作や代行支援などの売上も一定数あり、ドラフトナビ以外の事業も順調に成長していることがわかります

市場規模

次が市場規模です。新卒の高卒人材の市場規模は約612億と、大卒人材の1/2程度のサイズとなっています。
しかしながら、先行者利益や参入障壁の高さなどによりジンジブが優位性を有しており、この市場の大部分を獲得することが見込まれます
その自信から、前述の野心的な中期計画が発表されたのだと思います。

ジンジブのように、求人企業の採用活動を外部として受注する「採用アウトソーシング企業」が近年増えてきています
矢野経済研究所によると、2022年時点で市場規模は706億円にも上ると推定されており、おそらく現在ではさらに市場規模が拡大していると推定できます。

hiraichiが考える今後の懸念点

最後に私、hiraichiが考えるジンジブの今後の懸念点についてお伝えいたします。
まず一つに求人サイトに頼らない用手法が出現しつつあるということです。
近年では求人サイトを使わずにSNSや採用ランディングページのみを活用して、採用で成果を上げている会社も増えています。求人サイトというビジネスモデル自体がどこまで継続していくのかは気になるところです
また、中小企業の採用手法のほとんどが、ハローワークもしくは縁故採用であり、採用にコストをかける意識がない会社が多い可能性があります。
現にジンジブが行った調査でも、採用活動を外部委託する予定はないと回答した企業が半数近くあることがわかります。
そのような企業に対して、自社の価値・成果をいかに伝え、価値観を転換できるかが焦点になります。

まとめ

ジンジブは、高卒人材、求人企業、学校に一気通貫のソリューションを提供することで、高卒人材の就職活動に生じる社会課題の解決に取り組んでいます。
このような社会課題の解決と自社の収益の両方を実現する企業は、ぜひとも応援したいです。
そして、日本の最も重大な経営課題である人材不足の解消に貢献することを願うばかりです。