外国人起業家が日本で法人口座を開設するにはドライビングテクニックが求められる

日本で会社を設立し、事業を軌道に乗せようとする外国人起業家にとって、法人口座の開設は避けて通れない手続きである。しかし現実には、この段階で想定外の障壁に直面するケースが少なくない。本稿では、実際に支援に携わった一事例(以下、A氏とする)をもとに、その実態と背景にある制度上の課題を整理する。
会社は設立できても、口座が開設できない
A氏(アジア圏出身、日本語能力試験N1保有)は、スタートアップビザ(在留資格「特定活動」)の枠組みを活用し、必要な手続きを一つずつ完了させたうえで合同会社を設立した。資本金は3,000万円であり、海外の口座から段階的に日本の口座へ送金する計画としていた。事業計画・資金計画のいずれも、専門家の目から見て相応の合理性を備えたものであった。
しかし、法人としての活動を開始するために不可欠な法人口座の開設段階で、大きな障壁に直面することとなる。
最初に申し込んだネット銀行では、審査の結果、口座開設を見合わせるとの回答があった。理由は開示されない。次に地元の信用金庫に相談したが、こちらも前向きな回答は得られなかった。
専門家ネットワークを通じて判明した要件
対応策を検討する中で、税理士・中小企業診断士等の専門家が参加するネットワークに相談を投げかけたところ、ある税理士から有力な情報提供があった。特定のネット銀行(住信SBIネット銀行・ドコモSMTBネット銀行)であれば、他行で開設できなかった外国人経営者の法人口座であっても開設できた実績がある、というものであった。
しかし、詳細を確認したところ、当該銀行における本人確認書類は運転免許証を前提としており、外国人が通常保有する在留カードでは郵送での申込となり、審査完了まで2〜3週間を要するうえ、審査基準自体が厳格化する可能性もあるとのことであった。
結果として、A氏は日本国内での運転免許取得を、口座開設に向けた現実的な選択肢として検討することとなった。翌月から運転免許センターにて学科・実技試験を受験する予定であり、複数回の受験を要する可能性もある。
背景にある制度上の要請と実務のギャップ
この事例は特殊な例外ではない。金融庁は令和5年2月、全国銀行協会等に対し「外国人起業活動促進事業等を活用する外国人起業家への金融サービス提供について」と題する要請を発出しており、入国後6か月以内の口座開設申し出については、行政発行の起業準備活動計画確認証明書等を確認したうえで、居住者口座又はこれに準ずる口座を提供するよう求めている。
すなわち、行政としては外国人起業家への金融サービス提供を積極的に支援する方針を明確にしている。一方で、その方針が個々の金融機関における審査実務に、必ずしも一様に反映されているとは言い難いのが実情である。
さらに令和7年10月には、在留資格「経営・管理」の許可基準そのものが改正され、資本金要件が500万円から3,000万円へと大幅に引き上げられた。制度としては「実体を伴う事業者のみを対象とする」方向へ舵を切っている一方で、金融機関の窓口レベルでの対応は、依然として発展途上にあると言わざるを得ない。
もちろん、前提として外国金融機関とのやりとりにコストとノウハウが必要なのも十分理解できるところではあるが。
中小企業診断士としての見解
私は中小企業診断士として、また愛知県における創業活動確認業務に携わる立場として、外国人起業家の事業計画を精査する機会が少なくない。A氏についても、専門知識と技術力を兼ね備え、日本国内で腰を据えて事業を展開する意思を明確に持つ人物であった。
こうした人材が、事業の本質とは直接関係のない口座開設という手続き上の障壁によって足止めされる状況は、日本にとっても機会損失であると考える。制度の理念と現場の運用実務との間にある乖離を埋めていくことが、今後の課題であろう。